監督: トッド・フィリップス
主演: ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、
ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ
公開年: 2019年
1. 概要
「ジョーカー（Joker）」は、2019年に公開されたトッド・フィリップス監督による心理スリラー映画です。DCコミックスのキャラクターであるジョーカーを題材にしていますが、従来のスーパーヒーロー映画とは一線を画した、深い社会的テーマを持つ作品です。ホアキン・フェニックスが主演を務め、その圧倒的な演技が高く評価され、多くの賞を受賞しました。
2. ストーリー
物語の舞台は1980年代のゴッサムシティ。経済不況と社会不安が広がる中、主人公アーサー・フレック（ホアキン・フェニックス）は、コメディアンを夢見る孤独な男です。彼は精神的な問題を抱え、母親ペニー（フランセス・コンロイ）と二人で暮らしています。アーサーは、笑いの発作を引き起こす病気を抱えており、そのために周囲から疎外され、いじめられることが多いです。
アーサーは、デイタイムの仕事としてピエロの格好をして広告をする仕事をしていますが、その仕事でも失敗が続き、次第に精神的に追い詰められていきます。ある日、地下鉄で3人の若いビジネスマンに襲われたアーサーは、自己防衛のために彼らを銃で撃ち殺してしまいます。この事件を機に、アーサーの中で何かが壊れ、彼は次第にジョーカーという狂気の存在へと変貌していきます。
アーサーの行動は、社会全体に波紋を広げ、富裕層と貧困層の対立が激化します。彼は自身のアイデンティティを見つけるために、ゴッサムシティのテレビ司会者マレー・フランクリン（ロバート・デ・ニーロ）のショーに出演し、その場で衝撃的な行動に出ることで、完全にジョーカーとしての姿を確立します。
3. キャストとキャラクター
アーサー・フレック は、その圧倒的な演技が映画の中心となっています。フェニックスは、アーサーの精神的な苦悩と狂気への変貌を見事に表現しています。
ロバート・デ・ニーロ
マレー・フランクリン役で、アーサーにとっての憧れの存在であり、物語のクライマックスに重要な役割を果たします。
ザジー・ビーツ
ソフィー・デュモンド役で、アーサーの隣人として登場し、彼の幻想と現実の境界を曖昧にするキャラクターです。
フランセス・コンロイ
ペニー・フレック役で、アーサーの母親として、彼の過去と現在に大きな影響を与える存在です。
4. 演出と映像
トッド・フィリップス監督の演出は、映画全体に一貫した暗く重厚なトーンを与えています。ゴッサムシティの荒廃した風景や、アーサーの内面世界を映し出す映像美は、観客を強烈に引き込みます。特に、アーサーがジョーカーへと変貌する過程を描いたシーンは、緊張感と不安感を高める巧みなカメラワークと編集が光ります。
映画の色彩や照明も、物語のテーマと調和しており、アーサーの精神状態を視覚的に表現しています。暗く冷たい色調が多用される一方で、ジョーカーとしてのアイデンティティを確立するシーンでは、鮮やかな色彩が使われ、彼の内なる狂気を象徴しています。
5. 音楽
ヒルドゥル・グーナドッティルが手掛けた音楽は、映画の雰囲気を一層引き立てています。彼女のスコアは、アーサーの内面世界と外部の現実を巧みに結びつけ、観客に深い感情的な影響を与えます。特に、チェロを中心とした重厚な音楽は、アーサーの精神的な苦悩と狂気を象徴しています。
6. テーマとメッセージ
「ジョーカー」は、社会的な疎外、精神的な健康、貧困と富裕層の対立といった深いテーマを探求しています。アーサーの物語は、社会から見放された人々の苦悩と、その結果としての暴力と混乱を描いています。映画は、現代社会における共感と理解の欠如がどのようにして個人を破壊し、社会全体に影響を及ぼすかを鋭く問いかけます。
また、映画は自己アイデンティティの探求と、それが他者との関係によってどのように形成されるかについても深く掘り下げています。アーサーの変貌は、彼が自分自身を見つける過程であり、その過程がいかにして彼をジョーカーという象徴的な存在へと導いたかを描いています。
7. 総括
「ジョーカー（Joker）」は、社会的な疎外や精神的な健康、貧困と富裕層の対立といった深刻なテーマを探求する、重厚で挑戦的な作品です。ホアキン・フェニックスの圧倒的な演技が映画の中心となり、彼のアーサー・フレックからジョーカーへの変貌を見事に描いています。トッド・フィリップス監督の演出とヒルドゥル・グーナドッティルの音楽が一体となり、観客に強烈な感情的影響を与えます。映画は、視覚的にも音楽的にも緻密に作り込まれており、現代社会に対する鋭い問いかけを含んだ作品です。
8.評価
- ストーリー: ★★★★☆
- キャストと演技: ★★★★★
- 演出と映像美: ★★★★★
- 音楽: ★★★★★
- テーマとメッセージ: ★★★★★
総合評価: ★★★★★（4.8/5）
「ジョーカー」は、深い社会的テーマと圧倒的な演技、視覚的な美しさが融合した、観客に強烈な印象を残す傑作です。
